孤独な雨

悲しみは雨のように降り続く。桃水詩集。

走れメロス

私はこれ程努力したのだ

約束を破る心は 微塵もなかった

私は精一杯 努めてきたのだ

動けなくなるまで 走って来たのだ

愛と信実の血液だけで動いている

この心臓を見せてあげたい

けれども私は 精も根も尽きたのだ

私は友を欺いた

 

中途で倒れるのは

初めから何もしないのと同じだ

友よ 許してくれ

君はいつでも 私を信じた

私たちは本当に 佳い友と友であったのだ

いまだって 君は私を待っているだろう

ああ 待っているだろう

よくも私を信じてくれた

それを思えばたまらない

私は負けたのだ 

 

お前を待っている人があるのだ

お前は信じられている

お前は信頼に報いなければならない

今はその一事だ 走れ!メロス!

 

すると 岩の裂け目から滾々と

何か小さく囁きながら

清水が湧き出ているのである

水を両手で掬って 一口飲んだ

ほうと長い溜息が出て 

夢から覚めたような気がした

 

歩ける 行こう

わずかながら希望が生まれた

日没までには まだ間がある

先刻の悪魔の囁き あれは夢だ

悪い夢だ 忘れてしまえ

ああ 日が沈む 待ってくれ

友のために私は今 こんなに走っているのだ

おくれてはならぬ 

愛と誠の力を 今こそ知らせてやるのだ

 

私を待っている人があるのだ

私は信じられている

私は 信頼に報いなければならぬ

今は その一事だ 走れ!走れ!メロス!

 

待て その人を殺してはならぬ

メロスが帰って来た 約束のとおり

いま 帰って来た

殺されるのは私だ メロスだ

彼を人質にした私は ここにいる

 

セリヌンティウス

私を殴れ 力いっぱいに頬を殴れ

途中で一度 悪い夢を見た

君がもし 私を殴ってくれなかったら

私は君と抱擁する資格さえないのだ 殴れ

 

ありがとう 友よ

 

※この詩は太宰治先生の原作・言葉をほぼそのまま使い、

 編集したものです。編詩 桃水 というところでしょうか。